- なぜ客先常駐は敬遠されるの?
- 客先常駐で働くデメリットを知りたい
- 別の企業に転職した方がいい?
客先常駐(SES)として働いているエンジニアは多いです。
実際、客先常駐はIT業界で最もメジャーな労働形態であり、厚生労働省によると90%以上のIT企業が客先常駐を行っているというデータがあります。
これだけの企業が採用しているのであれば、経営者にとっては美味しい構造があり、企業としては儲かるビジネスモデルなのでしょう。
しかし、労働者にとってはメリットだけではなく、デメリットが多く存在します。
この記事では、「客先常駐エンジニアとして働くデメリット」についてご紹介します。
記事を読み終わった時には、「なぜ客先常駐エンジニアが敬遠されるのか?」を理解できているはずです。
客先常駐とは何か?
を知りたい場合には、まず以下の記事をご覧ください。
http://runaway-ses.site/ses
またSIerについては、以下の記事に記載しています。
http://runaway-ses.site/sier-all
客先常駐(SES)のデメリット
客先常駐に関しては、メリットよりもデメリットの方が強調されることが多いです。
では一体、何が問題なのでしょうか?
以下で具体的に見ていきましょう。
1) 自社への帰属意識がなくなる
- 自社へ帰るのは月に一回の”帰社日”のみ
- 自社との連絡は業務報告のみ
実際、このような方は多いです。
自社の人間とはコミュニケーションの機会が少ないため、常駐エンジニアとして働くほど、自社への帰属意識は薄れていくでしょう。
また、一緒に働くのは他社のエンジニアなので、彼らとの関係性が強くなるのは当然のことです。
もしかしたら私のように、自社のことを「給料を中抜きしているだけの存在」だと考えるようになる方もおられるかもしれません。
帰属意識というのは恐ろしいもので、不足すれば自社への不満や苛立ちが募り、信頼できなくなります。
また個人でスキルアップやキャリアプランを設定できなければ、仕事のモチベーションを維持することは困難です。
客先常駐は「ドライな人間関係が好き」「モチベーションを一人で保てる」人には向いているかもしれませんが、人間関係や会社との一体感を重視する人にとっては辛い働き方になるはずです。
2) 自社の人間との繋がりが薄くなる
職場は顧客先企業となるため、基本的に関わるのは”現場の人”たちです。
自社へ帰ることはほとんどなく、自社とのやりとりは帰社日のみ、といった企業も少なくありません。
私の勤めていた会社では、日々の業務をメールで報告していましたが、自社へ帰ることはまったくありませんでした。
そのため自社の人間と関わる機会がなく、
- 社員の顔と名前が一致しない
- 知らない間に新人が入社していた
- 同僚が辞めたことを知らなかった
このようなことは日常茶飯事でした。
同じ会社の人間ではありますが、交流する機会がないため、深い関係性を築くことが難しかったです。
3) お客様の元で働くため、人の目が気になる
客先常駐では、「顧客先企業の社員」や「別の客先常駐企業の社員」と働くことになります。
彼らは共に働く仲間である一方で、お客様でもあります。現場での振る舞いには細心の注意が必要です。
エンジニアはあくまで、「顧客先に派遣されてITサービスを提供する存在」だということを忘れず、業務に取り組む必要があるでしょう。
- 寝坊する
- 社員同士でトラブルを起こす
- 仕事にやる気が見られない
また実際の現場では、トラブルを起こすような方もおられました。
そのような方は「短期間での契約解除」となることが多かったです。
「適切なサービスを提供できなければ現場に残れない」というプレッシャー。
あるいは「自身の立ち位置」にストレスを感じるのも客先常駐のデメリットでしょう。
4) スキルアップが難しい
客先常駐では短期間(短くて1-3ヶ月)で現場が入れ替わるのが一般的で、製品仕様やプロジェクトを深く理解する間もなく次の現場に派遣される可能性が高いです。
また、PM(プロジェクトマネジメント)やPL(プロジェクトリーダー)は顧客社員が担当することが大半で、顧客との折衝や設計工程の経験を積む機会に乏しいです。
どこまでいっても外注という立場なので、重要な仕事は任されず、単純労働をさせられる可能性が高いのです。
私の働いていた現場では数年間、同じ業務を担当している方がいました。
レコーダーの動作確認をする仕事だったのですが、来る日も来る日もリモコンを押して、ボタンが想定通りに切り替わるかを確かめます。
このような単純労働は、悪く言うと「誰でもできる、替えの効く仕事」であり、スキルを積み重ねることが難しいです。
もしスキルを身に付けたいのであれば、適切な環境に身を置くことが近道となります。
そのためには、どのような企業で、どのようなスキルを手に入れて、将来どのようになりたいのかを思い描く必要があるでしょう。
客先常駐は常駐することで対価が発生するビジネスモデルなので、基本的には自らスキルアップの勉強をしたり、異動の申し出をしない限り、自社からは放置されることになります。
適切な環境で働けるように、自身が行動を起こさなければなりません。
5) キャリアプランを描きにくい
自社やSIerで働くSEのキャリアパスは、「技術のスペシャリスト」や「PL(プロジェクトリーダー)」、「営業コンサルタント」といったものが一般的です。
しかし、客先常駐のキャリアプランは乏しいです。
あくまで外注なので、業務の根幹となる知識が要求されることは少ないです。
リーダーは基本的には顧客が担当するため、プロジェクトリーダーになることはできません。
また対人折衝や設計といった上流工程の経験を積みづらいため、プログラマーやテスターとしてのキャリアしか歩めなくなります。
これはIT業界がユーザー → SIer → 下請け → 孫請け….という多重構造になっていて、対人折衝や設計は上位層が担当、プログラマーやテスターは下位層が担当という仕組みになっていることが要因です。
そのため上流経験を積みたいのであれば、転職を視野に入れる必要があるでしょう。
どの階層の企業に所属しているかを含め、自身が将来どのようになりたいかを定期的に見つめ直すことが大切です。
6) 給料が上がりにくい
客先常駐のビジネスモデルは構造上、給料が昇給していきません。
顧客に対して、「エンジニアを140-180時間、50万円で貸し出しますよ」といった契約でエンジニアを貸し出すため、エンジニアの成果ではなく、労働時間で単価が決定するからです。
「いやいや、それなら単価を上げればすべて解決じゃん」
という意見もあるでしょうが、話しは簡単ではありません。
先ほどお話したように、客先常駐では短期間で現場が変わるため、表面的なスキルしか身につきません。
深い知識やスキルがなければ、顧客と単価交渉をすることは困難です。
その結果、年齢を積み重ねても、スキルがないために給料が上がらないエンジニアが発生します。
また給料は仕事内容とも関係しており、テスターやプログラマーといった下流工程は単価が安く、要求仕様や詳細設計といった上流工程は単価が高くなる傾向にあります。
将来的に給料がたくさん欲しいのであれば、上流工程の仕事を受注している企業で働くなど、学べるスキルに注目するとよいでしょう。
7) 年齢を重ねるにつれ、案件が少なくなる
一般的な仕事であれば、歳を取れば知識や経験が積み重なり、選択肢が増えていきます。
しかし客先常駐エンジニアは40代、50代と年齢が上がるにつれて仕事の数が減っていく傾向にあります。
年齢が上がれば、エンジニアの人件費は増えていく一方で、相応のスキルを求められるからです。
スキルが足りないのであれば、コストを抑えたい会社は20代、30代の若い社員に仕事を依頼したいと考えます。
顧客側としても、
- どうせ教えるなら若い方がいい
- 年上の社員なら年相応の経験がないと…
といった考えがあり、若い人材を好む傾向にあるようです。
またリーダー目線だと、経験のない若者の方がマネジメントしやすく、将来性を期待できるメリットがあります。
40代、50代になっても客先常駐で働きたい場合、単価に見合ったスキルを身につけるか、低い賃金で我慢するか、の2択を迫られるでしょう。
8) 十分な教育を受けられない可能性がある
企業が客先常駐ビジネスを行うのは、「人を派遣するだけでお金が入る美味しいビジネスである」のも理由の一つですが、そもそも技術力が不足していて、自社では製品を作れないのも要因です。
そのため、自社には技術レベルの低いエンジニアしかおらず、新人を育てられないような企業も多いです。
そのような会社では、新人を現場に放り込んでOJT(オンザ・ジョブ・トレーニング)で育てるといったスパルタ方式を採用していることも多いです。
OJTという響きはかっこいいですが、行っていることは「可愛い子には旅をさせろ」と似たようなものです。
それは「厳しい業務を任せてみて、勝手に這い上がってこい」と相手任せにする放置プレーかもしれません。
あるいは対応できる人が誰もいないような炎上プロジェクトに放り込まれるだけなのかもしれないです。
いずれにしても、体系的にまとめられた技術を学べない環境だということです。
企業でどのような研修が行われており、どのような技術者が働いているかを事前に知っておくことは大切だと思います。
9) 正当な業務評価を受けにくい
「客先常駐では自社との関係性が薄くなる」と上述しましたが、そのせいで適切な業務評価を受けられない可能性があります。
一般的な企業では、直属の上司が部下の働きぶり評価します。
しかし客先常駐エンジニアが働くのは顧客先企業であるため、現場には直属の上司がいないこともしばしばです。
そのため、エンジニアの働きぶりを直接確認することが出来ないのです。
客先常駐エンジニアの評価は、顧客先企業からの報告によってなされることも多いです。
しかし自社とは評価の基準が違ったり、仕事の詳細がうまく伝わらないなど、正確な評価を受けられない可能性があるのです。
10) 一人で派遣される可能性がある
客先常駐では業務経験が浅いにも関わらず、一人で派遣されることがあります。
新卒で雇った社員を一人で現場に送り込むような、無茶苦茶な企業も存在します。
知識やスキルもなく、右も左も分からない状態であれば、どのように振る舞えばよいか困ってしまうかもしれません。
ただ上司がいなくても、仕事は自身で判断して進めなければなりませんし、顧客の要求水準までスキルを上げていく必要があります。
また分からないことを教えてもらうのは自社の上司ではなく、他社の社員になります。
そのためコミュニケーションを取るのが難しく、自力で問題を解決する姿勢が求められるかもしれません。
顧客から成果物を求められることがプレッシャーとなり、働きづらいと感じることもあるでしょう。
11) 休みを取るのが面倒
体調不良や電車の遅延などがあった場合、”自社”と”顧客先”の両方に報告をしなければなりません。
また現場では休暇を取得してOKだったにも関わらず、自社の都合で休暇が取れないこともあります。休みを取るためには、自社と顧客先、両方の許可を取る必要があるからです。
新しい客先の場合にあh、関係性が築けていたいため、気軽に休めないと感じる方もおられると思います。
「休暇を取る」という労働者として当然の権利を使うために、ストレスを感じたり、手間がかかるのは客先常駐のデメリットです。
12) 常駐先のルールに拘束される
客先常駐の勤務時間は、「客先に準じる」としている場合がほとんどです。
自社の勤務時間が「10-19時」
顧客の勤務時間が「9-18時」
仮に勤務時間がこのように定められている場合、顧客の勤務時間に合わせなければならなりません。
仮に自社でフレックス制度や時短勤務を導入していても、顧客先で働く以上、それらの制度を使うことは出来ません。
「お客様企業の勤務形態 = あなたの勤務形態」となるからです。
そのため、どのような企業に常駐するかは非常に重要です。
労働者を大切にしている企業に常駐できれば、自社よりも多くのメリットがあるでしょうが、その逆も然りです。
客先常駐が「案件ガチャ」と呼ばれる所以です。
事前に提示された条件とは異なる可能性があるため、注意が必要です。
最後に
客先常駐のデメリットをまとめると、以下の通りです。
- 自社への帰属意識がなくなる
- 自社の人間との繋がりが薄くなる
- お客様の元で働くため、人の目が気になる
- スキルアップが難しい
- キャリアプランを描きにくい
- 給料が上がりにくい
- 年齢を重ねるにつれ、案件が少なくなる
- 十分な教育が受けられない可能性がある
- 正当な業務評価を受けにくい
- 一人で派遣される可能性がある
- 休みを取るのが面倒
- 常駐先のルールに拘束される
客先常駐は、経営者にとってはリスクの少ないビジネスモデルである一方、労働者にとってはリスクの高い働き方です。
正社員なのに派遣のような働き方を強いられるのに加え、スキルアップや給与面については不安を感じることも多いと思います。
特に40代、50代になった時に「スキルはない」、「マネジメント経験はない」、となると転職市場では厳しい評価が待っています。
私が一番おすすめするのは、自分自身を転職市場に晒してみることです。
ここで大切なのは、転職するかしないかではありません。
自分の市場価値を把握することが重要なのです。
- どのようなスキルが他社から重宝されるのか
- 年収の相場はどの程度なのか
- 足りない能力は何なのか
自身を市場に差し出すことで、何が足りなくて、何が必要なのかが見えてきます。
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