客先常駐

客先常駐(SES)とは? グレーだと言われる理由と3つの契約形態について解説します

この記事で解決できるお悩み

  • 客先常駐( SES)って何なの?

  • SES企業の契約ってどうなってるの?

  • SESはなぜグレーゾーンなのか知りたい!

客先常駐の別名として、SESという言葉があります。

SESは、IT業界では一般的に利用されている契約形態の一つです。

しかし「派遣・請負との違い」や「そもそもSESとは何か?」を知らずに働いているエンジニアは多いです。

この記事では、以下の3点を解説していきます。

  • SESとは何か?

  • SES企業の契約形態について

  • なぜSESはグレーゾーンなのか?

客先常駐(SES)とは?

SESはシステム・エンジニアリング・サービス(System Engineering Serveice)の略称で、「IT技術者の労働力を提供」する契約形態のことを指します。

ソフトウェア開発だけではなく、保守や運用のエンジニアもSESの対象になります。

基本的にSESエンジニアは、お客様のオフィスに派遣されて働きます。

そもそも、なぜ仕事を外部に依頼するのでしょうか?

  • 急な大規模ソフトの開発が始まる

  • 技術力を持ったエンジニアが社内に不足している

このようなIT業界を取り巻く状況が関係しています。

現代はIT化が進み、常に新しいツールが生み出され、アップデートされていく時代です。

しかし産業革命時に工場労働者が不足したのと同様に、IT技術を持ったエンジニアは不足しています。

さらにIT業界ではプロジェクト単位で開発が行われる為、一定期間のみエンジニアを必要とする会社が多いのです。

「必要なときに必要なだけ」のエンジニアを確保したい

このような要望を満たすために、客先常駐の仕組みが生み出されました。

エンジニアを必要としている企業に対して、「エンジニアを派遣するサービスを提供する企業の一員」となること。

これが客先常駐(SES)です。

SES企業の契約形態を解説

IT業界における契約形態は、大別すると以下の2つに分かれます。

  • 完成した納品物を提供する

  • 技術者の労働力を提供する

また契約形態をまとめると、以下の通りです。

契約形態指揮命令権責任範囲
SES契約( = 準委任契約)ベンダー側

業務の遂行
※成果物の完成責任はない

派遣契約クライアント側(常駐先)

業務の遂行
※成果物の完成責任はない

請負契約ベンダー側

成果物の完成
※成果物の完成責任がある

1) SES契約 = 準委任契約

SES契約は「準委任契約」とも呼ばれています。

例えば、発注者(クライアント)はA製品の開発を受注者(ベンダー)に依頼します。

このとき受注者は、「エンジニアの労働の対価」として金銭を受け取ります。請負契約のような「製品の完成責任」は発生せず、発注者に指揮命令権はありません。

2) 派遣契約とは?

SES契約と派遣契約の違いは、指揮命令権の所在です。

SES契約の場合、指揮命令権はベンダー側にあり、派遣契約の場合はクライアント側(常駐先)に指揮命令権があります。

ITエンジニアが客先で仕事をする(客先常駐)場合、多くはSES契約か派遣契約になります。

ただし客先で仕事をしていると、企業に所属せず、フリーランスとして活動している方も中にはおられます。

3) 請負契約とは?

請負契約では、受注者(ベンダー)は発注者(クライアント)からシステム開発の依頼を受け、成果物に対して金銭をもらいます。

そのため、クライアント側に指揮命令権はありません。

SES契約では、エンジニアを派遣(技術を提供する)ことに対して対価が発生するのに対し、請負契約では成果物に対して対価が発生します。

そのため仮に成果物が納品できないとなると、ベンダー側は1円も受け取れないことになります。

SES企業の多くは、このような1円の対価も受け取れないリスクを恐れ、SES契約を選択することが多いです。

なぜSESはグレーゾーンだと語られるのか?

SESと検索すると、「グレー」や「違反行為」といったマイナス要素の言葉が出てくることがあります。

なぜSESはグレーゾーンだと言われるのでしょうか?

理由は以下の通りです。

  • 指揮命令権が曖昧になる

  • 二重派遣になっている可能性

それでは詳しく見ていきましょう。

1) 指揮命令権の所在が曖昧になりやすい

SES契約では通常、作業指示の権限はベンダー側にあります。

しかし実際のところ、クライアント側が実施しているケースが見られます。

誰が作業者に指示を出しているのかを、証拠として残すのは難しいです。

指揮命令権の所在が曖昧であるにも関わらず、違反行為が表に出てこない。

そのため、グレーゾーンだと言われているのです。

2) 二重派遣になっている可能性がある

システム開発の現場では、大勢のエンジニアが働いています。

彼らはベンダーのエンジニアだけではなく、様々な企業から集められてきたエンジニアです。

ここで二重派遣が問題となります。

クライアントとベンダー間で派遣契約が結ばれている場合、他の会社の従業員がベンダーを通してクライアントへ派遣されることは「二重派遣」となり、法律上禁止されています。

しかしクライアントとベンダー間の契約がSES契約の場合、「二重派遣」には該当しません。

そのため、エンジニアをクライアント側へ派遣することができます。

ここで問題となるのは、SES契約であるにも関わらず、クライアントが指揮命令を行っている場合です。

SES契約ではクライアントに指揮命令権がないにも関わらず、派遣契約のように指揮命令権を行使するのは違法行為となります。

このように書面上と実態が乖離していることがあるため、グレーだと言われているのです。

なぜSESは失くならない?

なぜグレーゾーンの違法行為が指摘されているのに、SESはなくならないのでしょうか?

その理由は、クライアント・ベンダーの双方にとって利用価値があるからです。

1) 人手不足により、外注せざるを得ない

今やあらゆる業界でIT化が進んでいます。

システム開発だけでなく、システムを安定的に稼働させるためには、保守・メンテナンスのできる技術者が必要不可欠です。

しかし急激なIT化の波によって、IT業界は慢性的な人手不足です。

ちなみに人手不足というのは、「知識や経験のある技術者が不足している」という意味です。

少子化が進み、熟練技術者が引退するに従って、今後もさらに事態は悪化していくと予想されます。

能力のあるIT技術者を雇用し続けるためには、人件費だけではなく、長期的な育成が必要になります。企業によっては、エンジニアへの投資資金がない場合も多いです。

そのような時には、外部からエンジニアを連れてきて、プロジェクトに参加してもらいます。

プロジェクトはフェーズによって必要な人員が変わるため、都度人数を調整します。

そしてプロジェクトが解散すれば、エンジニアは不要になります。

SES契約を結ぶことで、「必要な時に必要なだけのエンジニアを確保」することができるのです。

2) SESはベンダー側にとってもメリットがある

SES契約を行う企業は、なぜ派遣ではなくSESを選択するのでしょうか?

必要な人員を必要なだけクライアントに提供するのであれば、違反行為の可能性があるSESよりも派遣の方が安全です。

それにも関わらず、SESが選択されるのは以下の理由からです。

  1. 作業指示をベンダーが行える

  2. SESビジネスモデルは起業しやすい

指揮命令権がベンダー側にあるため、残業時間や作業割り振りをコントロールできます。

作業を自由に決められることで、「エンジニアが希望している業務を与えられる」、「休日を取りやすい」というメリットがあります。

またクライアントの言いなりにならずに済み、エンジニアとしては派遣よりもSES契約を望む人もいます。

SESのビジネスモデルは、派遣するエンジニアがいれば成立します。

そのため、SESやSierの経験を持ったエンジニアにとっては、比較的簡単に起業が出来てしまいます。

実際に、一人で事業を行なっている方や数十人規模のSES企業が大半です。

私が勤めていたのは、以下の特徴を持つSES企業でした。

  • 従業員数:10名ほど

  • 事務所:ビルの一室 (基本は社長一人)

  • 自社開発・受託開発を目指している

SES企業の従業員はすべて常駐先企業に出向しているため、事務所には社長しかいません。

私の企業ではビルの一室がオフィスになっていましたが、SESではマンションの一室や自宅をオフィスとして利用している会社もありました。

受託開発をするためには、スキルや経験を持ったエンジニアがいなければ仕事を受注することができません。

そのため現在はエンジニアに常駐してもらい、現場でスキルを磨いてもらう。

そして、将来的には自社製品を開発したいと考えているようでした。

実際に自社製品を開発するかはともかく、SESは派遣するエンジニアがいれば成立する起業しやすいビジネスモデルです。

最後に

この記事では、以下の4点を解説してきました。

  • SESとは何か?

  • SES契約の特徴

  • なぜSESはグレーゾーンなのか?

  • なぜSESはなくならないのか?

SESについては、働いているエンジニア自身も理解できていないことが多く、残念ながらネガティブな要素があるのも事実です。

ただし企業にとっては「必要な時に、必要なだけのエンジニアを確保」できるというメリットがあり、エンジニアにとっても様々な現場を経験することで、スキルを身に付けることができます。

大切なのは、SESの理解を深めることです。

業界の構造を理解し、自身の働き方を見直すことで、目指すべき方向性を定めることができます。