定年とは、「企業や公務員で働く正規雇用者が、一定の年齢に達した場合に仕事を退職する年齢のこと」を指します。
現代は高齢化が進み、定年が65歳まで引き上げられようとしている時代です。それにも関わらず、IT業界には言わずと知れた伝説があります。そう「35歳定年説」です。
SE(システムエンジニア)が35歳で定年になるとは、一体どういうことなのでしょうか?
今回は「35歳定年説が囁かれる4個の理由」と「35歳以降も活躍するための方法」について、ご紹介したいと思います。
なぜ「35歳定年説」が囁かれているのか?
理由1 : 体力が衰えるから
IT業界は激務だと言われています。
1日中パソコンに向き合い、カタカタとキーボードを叩き続けるのは思いのほか体力を消耗します。腰をいためる、指が腱鞘炎になる、視力が低下するといった職業病に苦しんでいる方も多いです。
20代の頃はガムシャラに身体を酷使しても、なんとかなるでしょう。
実際に周りのおじさんたちに話を聞くと、昔は「会社に寝袋持参で作業をする」、「連日残業するのが当たり前」といった環境で仕事をしていたそうです。
ただし、歳をとると体力は確実に衰えます。
どれだけ日常的に鍛えていようが、知らず知らずの間に身体の機能は低下していきます。肉体の衰えには、どうやっても逆らうことは出来ません。
体力が低下するために、若手のように激務のプロジェクトをこなすことが出来なくなる。
そのため、SEは35歳が潮時だと言われています。
理由2 : 学習能力が衰えてくるから
「脳のほぼすべての機能は、20歳頃をピークに低下していく」と考えられています。
経験により蓄えられる知識は40代後半までピークが維持されますが、記憶、推論などの情報処理能力は使わなければどんどん落ちていくようです。
IT業界では新しい技術が更新され続けるため、最前線で働くためには新しい知識を吸収し、アップデートしていく必要があります。しかし、年齢を重ねると新しいことを学ぶ意欲や理解して吸収する能力が低下してくるのです。
実際、現場で一緒に働いていた40代・50代の同僚には、新しい技術への興味を失っていた方もいました。過去に積み上げてきた技術で満足し、成長するための勉強を続けている様子もありませんでしたが、昔は必死に努力していたとのこと。
これも加齢による脳機能の低下が要因なのかもしれません。
理由3: 給料と年齢のギャップが出てくるから
サラリーマンの給料は、「年齢を重ねるごとに増えていく」と考えられていた時代があります。当時の日本は高度経済成長期のため、会社に長く勤めるほど給料が増えていきました。しかし、IT業界の90%以上を占める客先常駐には当てはまりませんでした。
客先常駐の一般的な契約は、準委任契約と呼ばれます。これは「エンジニアを月140-180時間、50時間お貸ししますので、その対価を頂きます」といった、働く時間で単価が決まる契約方法です。
そのため、会社がSEの給料を上げるためには、SEの単価を上げなければなりません。
単価はマネジメント能力や技術力といったスキルで決まるため、能力がないSEの単価は将来的にも変わりません。
すると35歳頃には、能力のないSEの給料と年齢の伸びは、比例しなくなります。将来的にも給料は横ばいとなってしまうため、35歳がSEの転換点だと言われているのです。
理由4: 客先常駐の大半が、単純労働になっているから
IT業界で働く人の大半が、客先常駐で仕事を行っているのも大きな理由でしょう。
客先常駐は近年SES(システム・エンジニアリング・サービス)という、聞こえのいい名前で定着しつつありますが、その実態はアウトソーシングビジネス、つまり社会の調整弁的な役割に過ぎません。
IT業界はピラミッド構造になっており、
発注企業→一次請け→二次請け→三次請け→受注企業……
といったように、発注者と受注社の間に企業が入り、金銭だけを中抜きするような仕組みです。
仕事の大半が、
発注者(要求仕様/詳細設計)→ 一次受け(基本設計) → 下請け業者(プログラミング/評価)
という構造になっているため、下請けの人たちは対人折衝や設計といった上流工程を経験する機会が少なく、上から降りてくる仕事をひたすらこなすことになります。
降りてきた仕事は、手順やマニュアル通りに行う単純労働が多いため、年齢相応の業務経験を積めないまま年齢を重ねることで、現場でしか通用しない人間になってしまうのです。
また年相応のスキルがないと、年齢が高いというだけで働ける場所が少なくなります。受け入れる顧客側のリーダーが年下であったり、金額に見合った仕事が出来なかったり、という理由で断られることが多くなるのです。
35歳定年説は、客先常駐で単純作業を続け、年相応のスキルを持たない人たちの終着点になっていたのです。
IT人材は不足している?
「35歳定年説」が囁かれる一方で、国が公表しているIT人材白書2020によると、「2030年にはIT人材が45万人不足する」と言われています。
これらは真逆の言説となっていますが、一体どちらが正しいのでしょうか?
実際のところは、市場が必要としているIT人材が不足するという意味だと思われます。
例えば、金融機関の基幹プログラミング言語にCOBOLがあります。COBOLは金融システムを支えるベース言語ですが、高齢化が進むことで、COBOLを扱える技術者が減少しています。また注目を集めている人工知能やIOTの導入には、システムを構築するための高度な技術力が必要であり、対応できる人材が不足しているのです。
現在のIT業界は、
「少子高齢化による年齢バランスの歪み」と「必要とされる技術に人が集まらない」
、という需給のギャップが生じている状態です。
そのため、35歳を超えても活躍し続けるためには、市場で必要とされる技術やスキルを理解し、キャッチアップしていく必要があります。
35歳を超えたら定年? SEとして活躍し続けるには?
対処法1 : プロジェクトマネージャー(PM)を目指す
プロジェクトマネージャーの役割は、プロジェクトを統括し、プロジェクトを成功に導くことです。
主な仕事としては、プロジェクト全体の品質管理、進捗管理、予算管理などを行います。ITスキルはもちろん、部下や取引先との信頼を得るためのコミュニケーション能力や「この人と仕事をしたい」と思われるような人的魅力も必要となるでしょう。
IPAが主催するプロジェクトマネージャ試験(PM)では、平均受験年齢が40歳前後となっており、SEのキャリアチェンジの選択肢となっています。
対処法2 : ITコンサルタントを目指す
ITコンサルタントはエンジニアの総合力が必要とされる職種となります。企業の経営的な課題や問題をIT技術を駆使して、解決することを目指します。
経営者や企業の担当者からヒアリングを行い、課題を浮き彫りにするためのコミュニケーション能力や問題点を解決するためのIT技術の提案など、幅広いスキルが必要とされます。
またITコンサルタントになるために資格は必要ありませんが、「基本情報技術者」、「ITコーディネーター」、「中小企業診断士」といった資格があると、顧客の安心材料にもなるでしょう。
対処法3: SE(システムエンジニア)を目指す
SEはエンジニアの王道のキャリアパスです。テスターやプログラマーといった下流工程を経験し、徐々に設計や顧客折衝といった上流工程を目指します。
幅広いIT知識を駆使することで、「生涯現役プログラマー」、「セキュリティのスペシャリスト」、「サーバー構築のプロ」といったキャリアを築く道です。
知識・スキルをアップデートし続ける
ここで重要なのは、いずれのキャリアパスを歩むにしても、スキルをアップデートし続ける必要があるということです。
新しい技術や知識を取り入れることで、目的の場所を目指すことができるのに加え、仮に目的地に辿り着けなくても、柔軟に対応できるようになります。
人生は常に予測不可能である
このような姿勢はITに限らず、これからの時代を生きるためには大切な心構えなのだと思います。
例えば、2019年から始まった新型コロナウィルスは世界を大きく変えてしまいました。飲食や友人との交流、旅行など、今まで”当たり前”に出来ていたことは、本当は”当たり前ではない”のだと気づかされました。
これからは、社会の変化に合わせてビジネスモデルを変化させる必要があり、柔軟に時代に合わせて変化できるかが、生き残るための優先事項となっていくはずです。
「35歳定年説」は自分の行動次第で打破できる
エンジニアは知識や発想の転換力が求められる、頭脳労働者です。
たしかに老化が進むにつれて新しい技術についていけなくなる、好奇心や体力が衰えるといった側面はありますが、積み上げられた知識はそう簡単に他者が真似できるものではないのです。
たとえ最先端技術には付いていけなくても、他者が簡単には参入できない知識を長い年月を掛けて、じっくりと熟成させていけば、十分活躍することは可能です。
今自分には何が必要なのか?
これから、どのような目的地を目指したいのか?
これらを自問自答しつづけ、時には軌道修正し、改善を積み重ねていくことで、35歳の壁はぶち破れるはずです。
さいごに
今回は「35歳定年説」が囁かれる4つの理由と35歳以降も活躍する方法について、お話してきました。
「35歳定年説」は都市伝説のようなものであり、根拠のない言説です。しかし信憑性を感じられるのには理由があり、年齢による心身の衰えやIT業界の構造が関係していました。
あくまで都市伝説であることを念頭におきつつも、今一度、自身の現状や今後のキャリアについて考える機会にしてみてはいかがでしょうか。